トラ先生中学受験 算数・理科 専門
← 記事一覧に戻る
DATA REPORT

合格実績の「カラクリ」
なぜ大手塾を合計すると定員を超えてしまうのか

「SAPIXは開成に◯◯人合格」「早稲田アカデミーは御三家に◯◯人合格」。中学受験期になると、こうした数字が塾のチラシやウェブサイトに躍ります。多くの家庭が塾選びの重要な判断材料にしているこの「合格実績」ですが、実はこの数字を各塾ごとに単純合計すると、学校が発表する実際の合格者数を大きく上回るという、業界では半ば公然の事実があります。今回は、実際の数字を使ってこの「カラクリ」を分解します。

公開日 2026.10.08 読了目安 約13分 カテゴリ 中学受験データ・教育分析

「SAPIXは開成に◯◯人合格」「早稲田アカデミーは御三家に◯◯人合格」。中学受験期になると、こうした数字が塾のチラシやウェブサイトに躍ります。多くの家庭が塾選びの重要な判断材料にしているこの「合格実績」ですが、実はこの数字を各塾ごとに単純合計すると、学校が発表する実際の合格者数を大きく上回るという、業界では半ば公然の事実があります。

しかも、その中身をさらに掘り下げると、四谷大塚のようにそもそも「一つの塾」の実績ではなく、全国数百カ所の提携塾を束ねたネットワーク全体の合算だったというケースも見えてきます。今回は、実際の数字を使ってこの「カラクリ」を分解し、保護者がこの数字とどう向き合うべきかを考えます。

まず、実際の数字を見てみよう。開成中学校の場合

百聞は一見に如かず。2023年度の開成中学校入試を例に、学校発表の数字と、各塾が公表した合格者数を並べてみます。

2023年度 開成中学校 合格者数(学校発表 vs 各塾公表実績)
項目人数
開成中学校が発表した合格者数(学校公式)419名
SAPIX(公表実績)274名
早稲田アカデミー(公表実績)124名
四谷大塚(公表実績)121名
日能研(公表実績)48名
上記4塾の単純合計567名
約35%超過
学校発表の合格者数419名に対し、大手4塾(SAPIX・早稲田アカデミー・四谷大塚・日能研)の合格実績を単純に足し合わせると567名。実に148名、率にして約35%も上回る。

もちろん開成に限った話ではなく、麻布・桜蔭・女子学院といった他の難関校でも、同様の「合計が定員を超える」現象が指摘されています。

カラクリその1.「併塾」による物理的な重複カウント

最大の要因は単純明快で、1人の受験生が複数の塾を掛け持ち(併塾)しているケースが非常に多いことです。SAPIXに通いながら苦手科目だけ個別指導塾やTOMASに通う、早稲田アカデミーのNNコースだけを他塾生が併用する、といった通塾パターンは中学受験ではごく一般的です。

この場合、1人の生徒が開成に合格すれば、その子が通っていたすべての塾が、それぞれ独立してその1人を「合格実績」としてカウントします。生徒本人にとっては「1つの合格」でも、業界全体で見れば「2つ、3つの合格実績」として数字上は複製されていくのです。

カラクリその2.「合格者」の定義が塾によってバラバラ

併塾だけでは説明のつかない部分もあります。それが「誰を合格者としてカウントするか」という定義そのものが、塾によって統一されていないという問題です。業界には一応の自主ルールとして、「入試直前6ヶ月のうち継続して3ヶ月以上在籍し、かつ受講時間が合計30時間を超える生徒」を実績としてカウントするという目安があるとされます。しかし、これはあくまで慣行であり、法的な強制力を持つ統一基準ではありません。

実際、SAPIXは公式サイトで「内部生手続きを行い、継続的に在籍した生徒のみを合格実績として掲載しており、テスト生や各種講習生などは含まない」という趣旨の定義を明示しています。一方で、他の一部の塾では、こうした定義そのものが公表されていないケースもあります。

同じ「合格者数」でも中身の濃度が違う:ある塾では「模試だけ受けた生徒」や「季節講習だけ参加した生徒」の合格が実績に含まれている可能性がある一方、別の塾ではそうした生徒を厳密に除外している。保護者から見れば、どの数字も同じ「合格者数」という言葉でくくられているにもかかわらず、その中身がまったく違う、ということが起こり得ます。

カラクリその3.四谷大塚は、実は「一つの塾」ではない

ここまでの2つのカラクリは4塾に共通するものですが、四谷大塚にはさらにもう一段、他塾とは構造そのものが異なる要因があります。四谷大塚の合格実績には、しばしば「四谷大塚ネットワーク」という注記が付きます。これは、四谷大塚が直接運営する直営校舎だけの実績ではなく、週テストを共有する「YTnet提携塾」(全国およそ900カ所)と、予習ナビ・復習ナビといった映像教材を提供する「四谷大塚NET加盟塾」までを含めた、合算数字だからです。

この仕組みは偶然ではなく、明確な歴史を持っています。四谷大塚は1954年に「日曜テスト」を開始し、1960年に看板教材『予習シリーズ』の販売を始めた老舗塾ですが、1989年に「準拠塾」制度を開始し、外部の中小塾が予習シリーズと週テストを使って指導できる仕組みを整えました。興味深いことに、この1989年は、TAP出身の講師陣が独立してSAPIXを設立したのとまったく同じ年です。四谷大塚と日能研が「大衆化」路線に舵を切るなかで最上位層をSAPIXに奪われつつあった時期に、四谷大塚はもう一つの拡大戦略として、自社の看板を外部の塾に開放するという道を選んでいたことになります。その後1998年に「YTnet」、2008年に「NET」が始まり、四谷大塚は直営校舎を増やす代わりに、全国の独立した中小塾を自社のネットワークに組み込むことで規模を拡大してきました。

この構造が合格実績にもたらす影響は大きいものです。例えば四谷大塚が直営で開成対策の専門コースを開講しているのは、お茶の水校舎と横浜校舎など、ごく一部の校舎に限られるとされます。にもかかわらず、公表される「四谷大塚121名」(2023年度開成)という数字は、こうした直営の少数校舎だけでなく、全国のYTnet提携塾・NET加盟塾に通う生徒の合格実績まで積み上げた、いわば連結決算的な数字である可能性が高いのです。SAPIXや日能研が基本的に自社直営校舎の実績を集計しているのに対し、四谷大塚は独立資本の中小塾の実績まで「四谷大塚」という一つのブランド名の下に集約できる、フランチャイズに近い構造を持っています。

この点について、四谷大塚自身が興味深い方針転換を行っています。2026年春の「中学入試報告会」で、四谷大塚の小川智弘塾長は、ホームページ上の合格実績の掲載方法を変更したことを説明しました。従来、四谷大塚の合格実績は「四谷大塚ネットワーク(予習シリーズやカリキュラムを使用する準拠塾を含む)」の数字のみを公表していましたが、今回から「四谷大塚ネットワーク」と「四谷大塚直営」を並記する形に改めたのです。報告会では、中学受験の中小規模塾の実に半分が四谷大塚の準拠塾であり、四谷大塚のテキストとカリキュラムで学習しているという実態も明かされています。

2.4
2026年度開成中学校で公表された「四谷大塚ネットワーク134名」は、「四谷大塚直営57名」のおよそ2.4倍。これまで語られてきた「四谷大塚◯◯名」の大部分は、全国の独立系準拠塾に通う生徒たちの実績の寄せ集めだったことが、四谷大塚自身の公表資料で裏づけられた。

カラクリその4.早稲田アカデミーは、実は四谷大塚の「最大の準拠塾」でもある

ここで、見落とされがちな前提を一つ確認しておきます。早稲田アカデミーは、5年生以上の主教材として四谷大塚の『予習シリーズ』を採用しており、毎週の「YT(週テスト)」も四谷大塚のシステムを利用しています。つまり早稲田アカデミーは、四谷大塚の教材・システムという同じ土台の上で指導を行う、最大規模の準拠塾に近い存在だということになります。

ここから導かれる自然な予想は、「早稲田アカデミー生の合格実績は、そのまま四谷大塚ネットワークの数字にも含まれているはずだ」というものです。同じ予習シリーズ・同じ週テストで学んでいる以上、四谷大塚ネットワークの数字は、早稲田アカデミー単体の数字と同等か、それ以上になるのが筋のはずです。

開成中学校 合格実績の推移
開成中学校2023年度2026年度
四谷大塚(ネットワーク)121名134名
四谷大塚(直営のみ)非公表57名
早稲田アカデミー124名169名

ところが実際の数字は、この予想を裏切ります。2026年度の開成では、「四谷大塚ネットワーク134名」に対し「早稲田アカデミー169名」と、早稲田アカデミー単体のほうが35名も多いのです。早稲田アカデミー生の実績が丸ごとネットワークの数字に含まれているなら起こり得ないはずの逆転が、現実には起きています。

説明のつかない35名の意味:早稲田アカデミーが「合格実績」としてカウントする生徒には、早稲田アカデミーの校舎に主に通う生徒だけでなく、他塾をメインにしながら、志望校別コース「NN」だけを併用する「NN他塾生」も含まれます。これらの生徒がSAPIXや日能研など、予習シリーズを使わない塾を主軸にしている場合、その生徒は四谷大塚の集計対象(YTnet提携塾・NET加盟塾)には入りません。早稲田アカデミーの実績のうち、四谷大塚ネットワークの数字からはみ出す部分は、まさにこうした「予習シリーズを使わない他塾生」の実績である可能性が考えられます。

この見方に立つと、四谷大塚と早稲田アカデミーの関係は、これまで語られてきた「たまたま近い数字が並ぶ2つの独立ブランド」というより、「重なり合う母体(早稲田アカデミー生)に加えて、それぞれが独自に抱える生徒(四谷大塚側の他準拠塾生、早稲田アカデミー側のNN他塾生)を持つ、部分的に重なった2つの集団」だと捉えるほうが実態に近いと考えられます。2023年度に「四谷大塚ネットワーク121名」と「早稲田アカデミー124名」がほぼ一致していたのも、両者の重なりの大きさと、それぞれが独自に抱える生徒数が、たまたま近い規模だったからかもしれません。

さらに言えば、四谷大塚が主催する模試「合不合判定テスト」は、四谷大塚・早稲田アカデミー・YTnet提携塾・多数のNET加盟塾を合わせた母集団で実施されています。早稲田アカデミーの生徒の多くも、日々の合否判定や偏差値という「ものさし」そのものを、四谷大塚が運営するインフラに依存して受け取っていることになります。表面的には「SAPIX・日能研・四谷大塚・早稲田アカデミー」という4つの独立した競合ブランドとして語られがちな大手塾業界ですが、実際には教材供給・模試インフラの両面で、四谷大塚を中心とした相互依存関係が存在しています。

カラクリその5.1人が生み出す「複数校合格」という水増し効果

中学受験では、1人の受験生が平均して5〜6校、多い場合はそれ以上を受験します。第一志望・第二志望に加え、お試し受験や併願校、さらに近年増えている複数回入試(同じ学校を年に2〜3回受験できる仕組み)を考慮すると、優秀な受験生ほど「合格」の数そのものが積み上がりやすくなります。

仮にある生徒が開成・渋幕・駒場東邦の3校に合格した場合、その塾の「合格実績」にはこの1人分の合格が3校分、それぞれ計上されます。学校側からすれば「1人の入学者」に過ぎない生徒が、塾の広告上では「3つの合格実績」として立派に機能するのです。

実際に問題化したケースもある

こうした「合格実績の水増し」は、これまで実際に法的な問題や業界内の対立として扱われたことがあります。2011年、消費者庁は大阪市で学習塾「第一ゼミナール」等を展開するウィザスと、千葉県で「市進予備校」を展開する市進ホールディングスに対し、景品表示法違反(優良誤認表示)による措置命令を出しました。両社は業務提携先の合格者数を自社の実績として合算しており、実際には東京大学合格者が0人だった年度の実績を、公表資料上では43人と表示していたことが発覚しています。2012年にも、お茶の水女子アカデミーが過去複数年分の合格者数を合算し、直近の実績であるかのように公表していた行為が、同様に景品表示法違反と認定されました。

中学受験の業界にも近い前例があります。首都圏で高校受験を主力に展開し、中学受験市場にも参入している大手塾・臨海セミナーは、過去に2度、合格実績を巡る問題で注目を集めています。1つ目は1999年、『週刊朝日』の報道により明らかになったもので、臨海セミナーが神奈川県公立高校入試の合格実績について、1996年度・1997年度の2年にわたり、私立トップ校の合格者数を誤って公立トップ校(横浜緑ケ丘・希望ケ丘・湘南など)の実績に加算していたとされます。テスト生や講習生を含めるといった一般的な「水増し」とは異なり、まったく実体を伴わない数字の誤加算という、業界内でも珍しいケースでした。

2つ目は2020年12月、大手学習塾のステップを幹事社として、早稲田アカデミー・秀英予備校など19社が連名で、臨海セミナーに業務改善を求める申入書を送付した一件です。申入書では、臨海セミナーが自社の塾生を通じて同級生の成績優秀者の氏名・塾名・志望校といった個人情報を本人の同意なく収集し、協力した塾生には金券を渡すという勧誘手法や、入試直前に特待生として囲い込む手法が問題視されました。この一件を受け、臨海セミナーとステップは共同声明を発表し、「今後は透明性の確保に取り組む」「行き過ぎた勧誘活動を反省する」との姿勢を示しています。

中学受験ではまだ表面化していない:これらの前例はいずれも大学受験予備校、または高校受験の実績を巡るものであり、管見の限り、中学受験の合格実績そのものが行政処分の対象になった例は見当たりません。しかし、「複数の集計元を合算する」「基準の異なる数字を並列に見せる」「実態の伴わない数字が生まれる」という構造そのものは、業界の垣根を越えて共通しています。

本当は誰も知らない「進学者数」という数字

ここまで「合格者数」の水増し構造を見てきましたが、実はもう一つ、保護者にとってより本質的な数字が、そもそも公表されていないという問題があります。それが「進学者数」——つまり、その塾に通っていた生徒のうち、実際に何人がその学校に入学したのか、という数字です。

合格しても、より志望順位の高い学校に進学すれば、その生徒は入学しません。塾側は当然この「入学した人数」も把握しているはずですが、対外的に公表されることはほとんどありません。理由は単純で、進学者数を公表すれば、逆算で「不合格になった生徒の数」や「合格したのに他校に流れた生徒の数」まで透けて見えてしまうからです。保護者が本当に知りたい「この塾に通えば、その学校に実際に入学できる可能性はどれくらいか」という問いに対する答えは、実は業界のどこを探しても正確には存在しない、というのが実態です。

保護者は、この数字をどう読めばよいか

とはいえ、合格実績という数字がまったく無意味というわけではありません。読み方を変えるだけで、有用な情報にはなります。

第一に、単純な「人数」ではなく「占有率」で見ることです。同じ学校の合格者数に占めるある塾の割合が年々増えているか減っているかは、その塾の指導力の相対的な変化を映す、比較的信頼できる指標になります。

第二に、単年ではなく複数年の推移で見ることです。1年だけ突出して伸びた実績は、たまたま優秀な学年が重なっただけという可能性もあります。

第三に、「合格者数」の絶対値だけで塾の優劣を判断しないことです。母数となる塾生数が違えば、同じ合格者数でも意味合いはまったく異なります。合格者数を在籍者数で割った「合格率」に近い視点を持つことで、初めて数字同士の比較が意味を持つようになります。


まとめ

2023年度の開成中学校では、学校発表の合格者数419名に対し、大手4塾の公表実績を単純合計すると567名となり、約35%も上回る結果になった。背景には、併塾による物理的な重複カウント、塾ごとに異なる「合格者」の定義、そして四谷大塚が全国のYTnet提携塾・NET加盟塾まで含めた連結決算的な数字を公表してきた構造がある。四谷大塚は2026年から直営実績とネットワーク実績を分離公表するようになり、開成では「ネットワーク134名」に対し「直営57名」と2倍以上の差が判明した。早稲田アカデミーは四谷大塚の予習シリーズ・週テストを使う最大規模の準拠塾でもあり、両者の実績は本来重なり合うはずだが、実際には早稲田アカデミー単体(169名)が四谷大塚ネットワーク(134名)を上回っており、この「重ならない部分」こそが、早稲田アカデミーが独自に抱える他塾生の実績を映している可能性がある。合格実績を巡る問題は大学受験予備校の行政処分事例や、高校受験最大手・臨海セミナーが同業他社から抗議を受けた事例もあり、業界共通の構造的な課題だと言える。保護者にとって本当に重要な「進学者数」は、そもそもどこにも公表されていない。合格実績という数字は、占有率・複数年推移・在籍者数との比率という視点で読み解いてこそ、初めて意味のある判断材料になる。

塾業界の勢力図の変化も見てみませんか日能研の黄金期からSAPIXの逆転、早稲田アカデミーの猛追まで、合格実績の歴史を連載でまとめています。
連載記事を読む →
この記事が「なるほど」と思えたら、ぜひXやLINEでシェアしてください。

塾選び・志望校対策について相談する

数字の見え方に惑わされず、お子さまに合った塾選び・学習計画を一緒に考えます。まずは無料相談でお聞かせください。

無料相談を申し込む

お子さんの志望校は、どのタイプにあてはまりますか

学校ごとの出題個性を踏まえた対策は、独学では組み立てにくいものです。まずは無料の学習相談で、志望校の理科がどんな力を求めているか一緒に確認しませんか。

無料相談を申し込む