トラ先生中学受験 算数・理科 専門
← 記事一覧に戻る
DATA REPORT

中学受験、平均239万円時代
過熱する受験率の裏側にある「学力の二極化」

首都圏の中学受験率は、少子化が進むなかでも過去最高水準を更新し続けている。一方でその裏側では、受験にかかる費用そのものが高騰し、「受験できる家庭」と「受験を選べない家庭」の間の差が、地域・所得の両面で静かに広がっている。今回は、この構造を具体的な数字から読み解く。

公開日 2026.08.06 読了目安 約10分 カテゴリ 中学受験データ・教育分析

首都圏の中学受験率は、少子化が進むなかでも過去最高水準を更新し続けている。2026年入試の首都圏(1都3県)受験率は18.06%、受験者数は52,050名で、過去40年間で4番目に多い水準だった。

一方でその裏側では、受験にかかる費用そのものが高騰し、「受験できる家庭」と「受験を選べない家庭」の間の差が、地域・所得の両面で静かに広がっている。今回は、この「受験率の高止まり」と「費用の高騰」が同時に進む構造を、具体的な数字から読み解く。

平均費用239万円。その内訳と、塾による差

教育サービス大手SPRIXが2025年8月に実施した「中学受験に関する調査」によれば、中学受験にかけた費用のうち最も回答が多かったのは200万円以上300万円未満(37.9%)で、300万円以上と回答した家庭も27.2%にのぼった。これらを踏まえた平均費用が239万円である。

239万円
中学受験にかけた費用の平均額(SPRIX「中学受験に関する調査」2025年8月)。200万〜300万円未満と回答した家庭が37.9%で最多、300万円以上も27.2%にのぼる。

この金額には、塾によってかなりの幅がある。大手4塾の小4〜小6の3年間の費用を比較すると、SAPIXが約256万円で最も高額、早稲田アカデミーが約240万円でこれに次ぐとされる。SAPIXの場合、小学1年生から入塾して小6まで通った場合の累計費用は350万〜400万円に達するという試算もあり、特に6年生の1年間だけで月謝・季節講習・志望校別選択講座・模試代を合計するとおよそ122万円にのぼる。これに家庭教師や個別指導を併用すると、6年生1年間だけで200万円を超える家庭も珍しくない。

つまり「平均239万円」という数字は、あくまで中央値的な目安であり、御三家をはじめとする最難関校を志望してSAPIXや早稲田アカデミーのNN志望校別コースをフル活用する家庭であれば、実際の負担額はこれを大きく上回る。逆に、日能研や四谷大塚を中心に、季節講習やオプション講座を絞って通う家庭であれば、200万円を下回るケースもある。「中学受験の費用」は一つの数字で語れるものではなく、どの塾を選び、どこまでオプションを積むかによって、数十万円から数百万円まで幅広く分布している。

さらに、合格後の学費も無視できない。東京都「令和5年度 都内私立中学校の学費の状況」によれば、私立中学校の初年度納付金の平均額は、平成30年度の94万9,416円から令和5年度には98万9,125円まで上昇しており、なかには1年で27万8,400円もの値上げを行った学校もある。塾代に加えて、入学後の学費自体も上昇局面にあるというのが、現在の中学受験を取り巻く経済環境である。

総務省が2026年2月に発表した家計調査報告でも、教育関連支出は前年比6.8%の伸びを記録している。物価上昇や賃金の伸び悩みが続くなかで、教育費だけが独立して膨らみ続けているのが実情であり、「中学受験をするかどうか」という選択そのものが、以前より重い経済的判断になっていることがうかがえる。

少子化なのに過熱する、3つの理由

首都圏1都3県の小学校に在籍する6年生の数は、少子化の影響で年々減少している。それにもかかわらず、中学受験率は2014年から10年以上にわたって上昇を続けてきた。この「人口は減っているのに、受験する子は増える」という逆説には、大きく3つの背景があるとされる。

一つ目は、公立学校教育への不信感・不安感である。「ゆとり教育」以降の教育改革をめぐる混乱や、公立小学校での学力形成に対する保護者の懸念が、私立中学への期待を相対的に押し上げてきた。二つ目は、コロナ禍における対応格差だ。休校や分散登校が長引くなかで、いち早くオンライン授業体制を整えた私立校・進学塾と、対応が遅れた公立校との差が可視化され、「私立のほうが安心できる」という評価につながった。三つ目は、多様化する大学入試への対応力である。総合型選抜や学校推薦型選抜が増えるなかで、私立中高一貫校のほうが新しい入試形態への対応やカリキュラム面での準備が進んでいると見なされていることも、受験率を押し上げる一因になっている。

これら3つの理由に共通するのは、いずれも「公立でも十分」という安心感が薄れたことへの反応だという点である。少子化によって一人あたりにかけられる教育費の総量が増えている(いわゆる「選択と集中」)ことも、この流れを後押ししている。子どもの数が減れば減るほど、一人の子どもに投じられる金額は相対的に大きくなり、その結果として、受験者数自体は減っても受験率は上昇する、という現象が起きているのである。

年収で見る中学受験。私立中学生の4割は世帯年収1200万円以上

「学力の二極化」を語るうえで避けて通れないのが、世帯年収別のデータである。私立中学に通う子どもがいる世帯の年収分布を見ると、世帯年収「1200万円以上」の割合が40.1%と最も多く、「1000万〜1199万円」の17.7%を合わせると、実に半数以上が世帯年収1000万円以上という結果になる。一方で、世帯年収600万円未満の世帯はわずか1割程度にとどまる。

私立中学校に通う場合の学習費(学費・塾代等の合計)は、公立中学校の2.7倍にのぼるとされる。もともと世帯年収が高い家庭が私立を選んでいるという側面もあれば、中学受験を機に共働きへ切り替える、あるいは世帯収入を増やす努力をする家庭も一定数含まれていると考えられる。いずれにせよ、「中学受験をするかどうか」という入口の時点で、すでに家庭の経済状況による選別が働いていることは、データが示すとおりである。

奨学金・特待生制度の拡充:開成中学校・高等学校では、経済的理由で進学を断念せざるを得ない生徒のため、同窓会「開成会」の寄付による「道灌山奨学金」制度を設けている。世帯の年間所得が218万円以下(給与収入のみの場合は400万円以下)という条件を満たせば、入学金・授業料等が実質的に免除され、6年間で計476万6,000円相当の奨学金を受けられる。難関校側の危機感の表れであり、こうした制度の拡充自体が、二極化が進んでいることの裏返しとも言える。

地域で見る中学受験。23区平均29.2%、文京・中央・港は「地元公立が少数派」

二極化は所得だけでなく、地域によっても明確に表れる。東京都区市町村別のデータでは、東京23区全体の平均受験率(私立・国立中学への進学率)は29.2%で、2019年と比べて2.8ポイント上昇している。なかでも文京区・中央区・港区の上位3区は、ほぼ半数の小学校卒業生が地元の公立中学以外の進路を選んでおり、「中学受験をするのが当たり前」という地域が、都心部を中心にすでに実在している。

東京都全体で見ても、私立中学への進学率は20.65%、国立・都立中高一貫校を合わせると22.73%が公立中学以外に進学しており、東京都は全国の都道府県の中でも突出して私立中学在籍率が高い。受験率の高いエリアには、教育熱心な家庭が集まりやすいという側面に加え、通学圏内に私立中学の選択肢そのものが豊富にあるという地理的要因も大きい。つまり「二極化」は、家庭の所得だけでなく、「どの地域に住んでいるか」によっても、受験するかどうかの前提条件そのものが変わってくるという構造を持っている。

「二極化」の中身。難関校一本足から、中堅校シフトへ

所得・地域という二つの軸に加えて、近年目立つのが受験行動そのものの二極化である。これは単に「できる子とできない子の差が開く」という話にとどまらない。中学受験という一つの枠組みの中で、「最難関校を目指す層」と「面倒見のよい中堅校を選ぶ層」への分化が進んでいる、という構造の変化を指している。

その象徴的な例が、男子御三家の一角である麻布中学校の志願者数の減少である。背景として、共働き家庭が「面倒見のよい中堅校に子どもを入れ、基礎学力を伸ばしてもらいたい」と考える傾向が強まっていることが指摘されている。高校以降は評定平均を積み上げ、指定校推薦や総合型選抜で大学進学を狙うという設計であり、必ずしも「最難関校に合格すること」自体を最終目標にしない家庭が増えているということだ。

つまり現在の中学受験市場は、「難関校を目指すためにSAPIXや早稲田アカデミーのNNコースに月10万円単位で投資する層」と、「中堅校を堅実に狙い、費用対効果を重視する層」という、目的も費用感も大きく異なる二つの層に分かれつつある。「中学受験率が過去最高」という一つの数字の裏には、実はかなり性質の異なる複数の受験行動(最上位を狙う一部の家庭による高額投資と、幅広い中間層による堅実な投資)が同居している、という点は、塾選びや志望校選びを考えるうえでも見落とせない視点だろう。


まとめ

少子化下でも受験率が伸び続ける背景には、公立教育への不安・コロナ禍の格差・大学入試の多様化という3つの構造要因がある。一方で費用は、塾によって年間100万円超から300万円台まで幅があり、私立中学に通う世帯の4割が年収1200万円以上、東京23区の受験率も文京・中央・港区では地元公立が少数派になるなど、所得・地域の両面で「受験できる層」が偏っている実態がある。その結果として進んでいるのが、最難関校への集中投資と、中堅校への堅実な投資という「二極化」である。

2030年代の勢力図も見てみませんか少子化がこれから加速するなかで、私立中高一貫校の生き残り策と、今後の勢力図の分岐を展望しています。
続きの記事を読む →
この記事が「なるほど」と思えたら、ぜひXやLINEでシェアしてください。

費用対効果も含めた塾選びを

どこにどれだけ投資すべきか、ご家庭の状況に合わせて一緒に考えます。まずは無料相談でお聞かせください。

無料相談を申し込む