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DATA REPORT

【物理だけを61校×3,854問で徹底解剖】
中学入試理科「物理分野」の学校別深層分析

問題数・出題比率・難度・出題単元・解答形式――5つの角度で見る学校差。これまでのシリーズでは理科という科目全体を横断してきましたが、今回は視点を変え、物理分野だけを61校・3,854問というデータで掘り下げます。「理科が得意」という括りでは見えてこない、物理特有の学校差を検証します。

公開日 2026.09.03 読了目安 約12分 カテゴリ 中学受験データ・教育分析

これまでのシリーズでは、理科という科目全体を横断してきました。今回は視点を変え、物理分野だけを61校・3,854問というデータで掘り下げます。「理科が得意」という括りでは見えてこない、物理特有の学校差を、問題数・出題比率・難度・出題単元・解答形式という5つの角度から検証します。

なお今回から、新たに聖光学院中・渋谷教育学園渋谷中・慶應義塾中等部の3校がデータベースに加わり、収録校は61校・総小問数14,473問になりました。

物理の絶対問題数。「量」で見た学校差

まず、10年分の過去問に収録されている物理小問の絶対数を見ます。同じ「物理」でも、学校によって出題される総量がまったく違います。

物理問題数トップ10
順位学校名物理問題数
1女子学院中105
1市川中105
3昭和学院秀英中93
3聖光学院中93
5日本女子大学附属中92
5暁星中92
7浅野中89
7麻布中89
9法政大学中88
10鷗友学園女子中85
物理問題数ボトム5
学校名物理問題数
広尾学園小石川中34
早稲田実業学校中等部34
渋谷教育学園渋谷中32
武蔵中26
香蘭女学校中等科22

女子学院中と市川中は、10年間で105問という、他校を大きく引き離す物理演習量です。一方、香蘭女学校中等科は22問と、女子学院中の5分の1程度にとどまります。この差は、単純に「理科の総問題数が多いか少ないか」だけでは説明できません。次の出題比率を見ると、その理由がはっきりします。

物理の出題比率。理科の中でどれだけ物理に依存しているか

物理問題数を、その学校の理科小問全体に占める割合に直すと、絶対数ランキングとは違う顔が見えてきます。

物理比率トップ10
順位学校名物理比率内訳
1栄光学園中38.8%52/134
2昭和学院秀英中34.8%93/267
3成城学園中33.5%59/176
4城北中32.9%80/243
5暁星中32.6%92/282
5駒場東邦中32.6%84/258
5海城中32.6%78/239
8中央大学附属中32.2%49/152
9本郷中31.9%67/210
10洗足学園中31.8%81/255
物理比率ボトム7
学校名物理比率
横浜雙葉中20.7%
雙葉中20.5%
武蔵中20.5%
フェリス女学院中20.4%
東京農業大学第一中20.1%
明治大学付属明治中17.4%
香蘭女学校中等科13.2%

61校平均は26.6%、中央値は25.8%です。栄光学園中は理科小問のほぼ4割が物理で、香蘭女学校中等科(13.2%)との差は25.6ポイント、比率にして約3倍に達します。

女子学院中は絶対数で1位でしたが、比率で見ると28.2%と平均をやや上回る程度です。総問題数(373問)自体が61校で最多クラスのため、物理も自然に多くなっている構造です。一方、栄光学園中は総問題数134問と決して多くないにもかかわらず、その4割近くを物理が占めており、「物理に対策の重心を置いた出題構成」であることがうかがえます。絶対数と比率は別の指標であり、志望校対策では両方を確認する必要があります。

物理の難度。その学校の中で、物理は相対的に難しいか

難度プレミアムについて:難度A〜Dは学校内の相対基準であり、「A校のB問題」と「C校のD問題」を単純比較することはできません。そこで各校の物理小問のうち、その学校自身の基準でC・D(上位2段階)に分類された割合を算出し、それをその学校の物理以外(化学・生物・地学)のC+D率と比較しました。この「差分」は絶対難度ではなく、「その学校にとって、物理は他分野より相対的に難しく作られているか」を示す指標です(以下「難度プレミアム」と呼びます)。
難度プレミアム トップ10(物理C+D率-他3分野C+D率)
順位学校名物理C+D率他3分野C+D率プレミアム
1芝中67.8%33.7%+34.1pt
2筑波大学附属駒場中52.6%22.2%+30.5pt
3城北中52.5%22.7%+29.8pt
4聖光学院中45.2%16.2%+29.0pt
5早稲田大学高等学院中学部53.5%27.2%+26.3pt
6慶應義塾中等部29.4%4.7%+24.7pt
7麻布中73.0%49.8%+23.3pt
8立教新座中41.8%18.9%+23.0pt
9学習院女子中26.2%6.3%+19.9pt
10明治大学付属明治中51.8%32.3%+19.5pt
難度プレミアム ボトム3(物理が相対的にやさしい学校)
学校名プレミアム
栄東中-5.6pt
武蔵中-6.2pt
昭和学院秀英中-6.3pt

芝中は、他分野のC+D率が33.7%であるのに対し、物理だけはC+D率67.8%と突出しています。芝中を志望する場合、理科全体の対策の中でも、物理は特に「その学校の標準以上の難度」で出題されると考えて対策する必要があります。麻布中は他分野自体がすでに全体的に難度が高い学校(C+D率49.8%)ですが、それでも物理はさらに23.3ポイント上振れしており、「麻布中の理科の中でも物理が最難関」であることが数値からも裏付けられます。

逆に昭和学院秀英中や栄東中、武蔵中は、物理比率自体は平均以上(特に昭和学院秀英中は比率2位)でありながら、難度プレミアムはマイナスです。つまり「物理の出題は多いが、その学校の基準では物理は他分野より易しめに作られている」ことになります。出題比率が高い=難しい、とは限らないという点は、混同しやすいので注意してください。

物理のどの単元が出るか。中単元別の内訳

物理は「てこ」「光」「電気」など複数の中単元に分かれます。61校・3,854問全体で見ると、出題の中心は次の単元です。

物理 中単元(統合)分布(全体)
順位中単元問題数比率
1てこ・つり合い・滑車55714.5%
252713.7%
3運動・力学48712.6%
4電気回路3709.6%
5熱・温度2707.0%
6浮力・密度2406.2%
7ばね2205.7%
8磁石・電磁石・磁界2155.6%
91854.8%
10発電・電力・電熱1534.0%
11振り子1193.1%
12電流・電圧・抵抗992.6%

「てこ・つり合い・滑車」と「光」が二大単元で、合わせて物理全体の約28%を占めます。ただし、これも学校ごとに大きな偏りがあります。

単元別・突出校(その単元が校内物理の何%を占めるか)
単元最も比率が高い学校校内比率
てこ・つり合い・滑車栄東中55.6%
武蔵中34.6%
運動・力学市川中54.3%
電気回路世田谷学園中41.5%
熱・温度日本女子大学附属中30.4%
浮力・密度聖光学院中26.9%
ばね国府台女子学院中25.0%
磁石・電磁石・磁界東洋英和女学院中学部20.9%
フェリス女学院中25.6%
発電・電力・電熱桜蔭中31.4%
振り子慶應義塾湘南藤沢中等部18.9%
電流・電圧・抵抗女子学院中16.2%

特に目を引くのは市川中です。市川中の物理小問105問のうち、実に54.3%(57問)が「運動・力学」に集中しています。市川中を志望する場合、物理対策の中でも運動・力学(速さ、水平投射、落下運動など)への配分を意識的に厚くする価値があります。同様に栄東中は「てこ・つり合い・滑車」だけで物理の過半数(55.6%)を占め、武蔵中は「光」だけで3分の1超(34.6%)を占めます。これらの学校では、単元の的を絞った対策が特に効果を発揮しやすい構造です。

反対に、市川中や栄東中のような単元集中型ではなく、複数単元にバランスよく分散している学校もあります(例:女子学院中は電流・電圧・抵抗が最多でも16.2%にとどまり、他単元も分散)。この違いも、過去問対策の設計に直結します。

解答形式の違い。物理は「計算」と「作図」に偏る科目

最後に、物理がどのような形式で答えさせられているかを見ます。まず、物理全体の出題形式構成を、理科4分野合計の構成と比較します。

出題形式物理のみ理科全体(4分野合計)
計算33.1%20.4%+12.7pt
選択26.3%30.5%-4.2pt
記述・説明10.2%15.8%-5.6pt
資料読解9.8%11.6%-1.8pt
実験・考察8.6%8.7%-0.1pt
作図・図示6.1%4.0%+2.1pt
知識・短答4.9%8.3%-3.4pt

物理は理科全体の中でも際立って計算比率が高く(+12.7pt)、作図・図示も相対的に多い(+2.1pt)一方、記述・説明や知識・短答は理科全体より少ない科目であることが分かります。理科という科目全体を「知識で解く」対策で乗り切ろうとすると、物理でつまずきやすい理由は、この出題形式の違いにあります。

学校別に見ると、この傾向がさらに極端になる学校があります。

物理内・計算比率が高い学校トップ5
学校名物理内の計算比率
明治大学付属明治中100.0%
栄東中85.7%
東邦大学付属東邦中68.9%
高輪中66.2%
豊島岡女子学園中61.1%

明治大学付属明治中は、物理小問56問すべてが「計算」に分類されています。これは、同校の物理出題が「回路図+計算+実験考察」のような複合形式で構成されており、複数技能を要する問題を代表カテゴリー「計算」に統合集計した結果です(小問1問=1代表カテゴリーという分類ルールのため、資料読解や実験考察の要素を含む問題も、計算が主要素であればすべて計算に分類されます)。実務的には「明治大学付属明治中の物理は、ほぼ例外なく計算処理を伴う」と理解しておくのが安全です。

物理内・作図比率が高い学校トップ5
学校名物理内の作図比率
昭和学院秀英中30.1%
浦和明の星女子中17.0%
日本女子大学附属中16.3%
暁星中16.3%
フェリス女学院中16.3%

昭和学院秀英中は、物理小問の3割が作図・図示です。回路図やグラフを自分の手で描く練習を、日常的な対策に組み込んでおく必要がある学校です。

物理内・記述比率が高い学校トップ5
学校名物理内の記述比率
渋谷教育学園渋谷中46.9%
武蔵中42.3%
フェリス女学院中39.5%
本郷中37.3%
学習院女子中27.9%

渋谷教育学園渋谷中と武蔵中は、物理小問の4割以上が記述・説明です。「物理=計算科目」という一般的なイメージとは逆に、これらの学校では物理でも現象を言葉で説明する力が問われます。

物理内・実験考察比率が高い学校トップ5
学校名物理内の実験考察比率
麻布中56.2%
女子学院中40.0%
市川中32.4%
駒場東邦中31.0%
法政大学中27.3%

麻布中は物理小問の半数以上が実験・考察形式です。公式を当てはめて計算するだけでは対応できず、実験設定を読み解き、条件と結果を結びつける力が中心的に問われます。

経年変化。物理比率が大きく動いた学校

61校のうち10年分のデータが揃う54校について、2017〜2019年と2024〜2026年の物理比率を比較しました。

物理比率の上昇が大きい学校
学校名2017-19年2024-26年変化
香蘭女学校中等科8.2%34.6%+26.5pt
東京農業大学第一中13.1%24.1%+10.9pt
大妻中18.9%29.7%+10.8pt
洗足学園中28.1%38.5%+10.4pt
栄光学園中42.9%53.2%+10.3pt
物理比率の低下が大きい学校
学校名2017-19年2024-26年変化
暁星中40.3%22.3%-17.9pt
淑徳与野中38.6%22.2%-16.4pt
昭和学院秀英中37.7%25.8%-11.8pt
高輪中37.5%25.9%-11.6pt
浦和明の星女子中22.8%15.6%-7.2pt

香蘭女学校中等科は、もともと物理の絶対数自体が61校最少(22問)であるため、この変化は小さな母数に基づく点に注意が必要ですが、それでも2017〜2019年はほぼ物理が出題されない年もあった一方、直近3年は毎年安定して物理が出題されるようになっています。栄光学園中は、もともと最も物理比率が高い学校でしたが、その比率がさらに10ポイント上昇しており、「物理重視」の傾向が近年さらに強まっています。逆に暁星中や昭和学院秀英中は、かつて物理比率トップ層にいましたが、直近では平均的な水準まで低下しています。「この学校は物理が多い」という評価は、過去問の年度によって変わりうるため、直近3〜5年の傾向を優先して確認することをおすすめします。

まとめ。物理対策をどう組み立てるか

61校・3,854問の物理データから見えてきたのは、次の3点です。

第一に、物理は「量」「比率」「難度」がそれぞれ独立した指標だということです。女子学院中(絶対数トップ)、栄光学園中(比率トップ)、芝中(難度プレミアムトップ)は、いずれも別の学校です。志望校の物理対策を考える際は、この3つを別々に確認する必要があります。

第二に、物理は単元が集中する学校と分散する学校に分かれます。市川中(運動・力学に54%集中)や栄東中(てこ・つり合い・滑車に56%集中)のような学校では、単元を絞った重点対策が有効です。一方、単元が分散している学校では、まんべんない対策が必要になります。

第三に、物理は理科の中でも「計算」と「作図」に偏った科目である一方、その中でも学校差は大きいということです。明治大学付属明治中や栄東中のように計算一色の学校もあれば、渋谷教育学園渋谷中や麻布中のように、記述・実験考察が中心の学校もあります。「物理=計算が速ければ勝てる科目」という前提は、学校によっては通用しません。

物理は、理科の中でも「対策の仕方が学校によって最も分かれる分野」と言えます。分野全体の傾向だけでなく、物理という一分野の中でもこれだけの違いがあることを踏まえて、志望校ごとの対策の濃淡を調整していただければと思います。

データに関する注記:本記事の数値は、61校・14,473問(うち物理3,854問)の過去問データにもとづきます。難度A〜Dは学校内の相対基準であり、学校間の絶対難度比較には使用していません。本記事の「難度プレミアム」は、各校の物理C+D率から、その学校自身の他3分野C+D率を差し引いた差分であり、絶対難度ではなく、校内での相対的な難易度配置を示す指標です。収録年度は学校によって異なり、61校のうち54校が10年分、広尾学園小石川中・立教女学院中が6年分、早稲田大学高等学院中学部が7年分、早稲田実業学校中等部・本郷中・栄東中・開智中が9年分です。経年変化の分析は、10年分のデータが揃う54校のみを対象としています。

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