これまでのシリーズでは、理科という科目全体を横断してきました。今回は視点を変え、物理分野だけを61校・3,854問というデータで掘り下げます。「理科が得意」という括りでは見えてこない、物理特有の学校差を、問題数・出題比率・難度・出題単元・解答形式という5つの角度から検証します。
なお今回から、新たに聖光学院中・渋谷教育学園渋谷中・慶應義塾中等部の3校がデータベースに加わり、収録校は61校・総小問数14,473問になりました。
物理の絶対問題数。「量」で見た学校差
まず、10年分の過去問に収録されている物理小問の絶対数を見ます。同じ「物理」でも、学校によって出題される総量がまったく違います。
| 順位 | 学校名 | 物理問題数 |
|---|---|---|
| 1 | 女子学院中 | 105 |
| 1 | 市川中 | 105 |
| 3 | 昭和学院秀英中 | 93 |
| 3 | 聖光学院中 | 93 |
| 5 | 日本女子大学附属中 | 92 |
| 5 | 暁星中 | 92 |
| 7 | 浅野中 | 89 |
| 7 | 麻布中 | 89 |
| 9 | 法政大学中 | 88 |
| 10 | 鷗友学園女子中 | 85 |
| 学校名 | 物理問題数 |
|---|---|
| 広尾学園小石川中 | 34 |
| 早稲田実業学校中等部 | 34 |
| 渋谷教育学園渋谷中 | 32 |
| 武蔵中 | 26 |
| 香蘭女学校中等科 | 22 |
女子学院中と市川中は、10年間で105問という、他校を大きく引き離す物理演習量です。一方、香蘭女学校中等科は22問と、女子学院中の5分の1程度にとどまります。この差は、単純に「理科の総問題数が多いか少ないか」だけでは説明できません。次の出題比率を見ると、その理由がはっきりします。
物理の出題比率。理科の中でどれだけ物理に依存しているか
物理問題数を、その学校の理科小問全体に占める割合に直すと、絶対数ランキングとは違う顔が見えてきます。
| 順位 | 学校名 | 物理比率 | 内訳 |
|---|---|---|---|
| 1 | 栄光学園中 | 38.8% | 52/134 |
| 2 | 昭和学院秀英中 | 34.8% | 93/267 |
| 3 | 成城学園中 | 33.5% | 59/176 |
| 4 | 城北中 | 32.9% | 80/243 |
| 5 | 暁星中 | 32.6% | 92/282 |
| 5 | 駒場東邦中 | 32.6% | 84/258 |
| 5 | 海城中 | 32.6% | 78/239 |
| 8 | 中央大学附属中 | 32.2% | 49/152 |
| 9 | 本郷中 | 31.9% | 67/210 |
| 10 | 洗足学園中 | 31.8% | 81/255 |
| 学校名 | 物理比率 |
|---|---|
| 横浜雙葉中 | 20.7% |
| 雙葉中 | 20.5% |
| 武蔵中 | 20.5% |
| フェリス女学院中 | 20.4% |
| 東京農業大学第一中 | 20.1% |
| 明治大学付属明治中 | 17.4% |
| 香蘭女学校中等科 | 13.2% |
61校平均は26.6%、中央値は25.8%です。栄光学園中は理科小問のほぼ4割が物理で、香蘭女学校中等科(13.2%)との差は25.6ポイント、比率にして約3倍に達します。
女子学院中は絶対数で1位でしたが、比率で見ると28.2%と平均をやや上回る程度です。総問題数(373問)自体が61校で最多クラスのため、物理も自然に多くなっている構造です。一方、栄光学園中は総問題数134問と決して多くないにもかかわらず、その4割近くを物理が占めており、「物理に対策の重心を置いた出題構成」であることがうかがえます。絶対数と比率は別の指標であり、志望校対策では両方を確認する必要があります。
物理の難度。その学校の中で、物理は相対的に難しいか
| 順位 | 学校名 | 物理C+D率 | 他3分野C+D率 | プレミアム |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 芝中 | 67.8% | 33.7% | +34.1pt |
| 2 | 筑波大学附属駒場中 | 52.6% | 22.2% | +30.5pt |
| 3 | 城北中 | 52.5% | 22.7% | +29.8pt |
| 4 | 聖光学院中 | 45.2% | 16.2% | +29.0pt |
| 5 | 早稲田大学高等学院中学部 | 53.5% | 27.2% | +26.3pt |
| 6 | 慶應義塾中等部 | 29.4% | 4.7% | +24.7pt |
| 7 | 麻布中 | 73.0% | 49.8% | +23.3pt |
| 8 | 立教新座中 | 41.8% | 18.9% | +23.0pt |
| 9 | 学習院女子中 | 26.2% | 6.3% | +19.9pt |
| 10 | 明治大学付属明治中 | 51.8% | 32.3% | +19.5pt |
| 学校名 | プレミアム |
|---|---|
| 栄東中 | -5.6pt |
| 武蔵中 | -6.2pt |
| 昭和学院秀英中 | -6.3pt |
芝中は、他分野のC+D率が33.7%であるのに対し、物理だけはC+D率67.8%と突出しています。芝中を志望する場合、理科全体の対策の中でも、物理は特に「その学校の標準以上の難度」で出題されると考えて対策する必要があります。麻布中は他分野自体がすでに全体的に難度が高い学校(C+D率49.8%)ですが、それでも物理はさらに23.3ポイント上振れしており、「麻布中の理科の中でも物理が最難関」であることが数値からも裏付けられます。
逆に昭和学院秀英中や栄東中、武蔵中は、物理比率自体は平均以上(特に昭和学院秀英中は比率2位)でありながら、難度プレミアムはマイナスです。つまり「物理の出題は多いが、その学校の基準では物理は他分野より易しめに作られている」ことになります。出題比率が高い=難しい、とは限らないという点は、混同しやすいので注意してください。
物理のどの単元が出るか。中単元別の内訳
物理は「てこ」「光」「電気」など複数の中単元に分かれます。61校・3,854問全体で見ると、出題の中心は次の単元です。
| 順位 | 中単元 | 問題数 | 比率 |
|---|---|---|---|
| 1 | てこ・つり合い・滑車 | 557 | 14.5% |
| 2 | 光 | 527 | 13.7% |
| 3 | 運動・力学 | 487 | 12.6% |
| 4 | 電気回路 | 370 | 9.6% |
| 5 | 熱・温度 | 270 | 7.0% |
| 6 | 浮力・密度 | 240 | 6.2% |
| 7 | ばね | 220 | 5.7% |
| 8 | 磁石・電磁石・磁界 | 215 | 5.6% |
| 9 | 音 | 185 | 4.8% |
| 10 | 発電・電力・電熱 | 153 | 4.0% |
| 11 | 振り子 | 119 | 3.1% |
| 12 | 電流・電圧・抵抗 | 99 | 2.6% |
「てこ・つり合い・滑車」と「光」が二大単元で、合わせて物理全体の約28%を占めます。ただし、これも学校ごとに大きな偏りがあります。
| 単元 | 最も比率が高い学校 | 校内比率 |
|---|---|---|
| てこ・つり合い・滑車 | 栄東中 | 55.6% |
| 光 | 武蔵中 | 34.6% |
| 運動・力学 | 市川中 | 54.3% |
| 電気回路 | 世田谷学園中 | 41.5% |
| 熱・温度 | 日本女子大学附属中 | 30.4% |
| 浮力・密度 | 聖光学院中 | 26.9% |
| ばね | 国府台女子学院中 | 25.0% |
| 磁石・電磁石・磁界 | 東洋英和女学院中学部 | 20.9% |
| 音 | フェリス女学院中 | 25.6% |
| 発電・電力・電熱 | 桜蔭中 | 31.4% |
| 振り子 | 慶應義塾湘南藤沢中等部 | 18.9% |
| 電流・電圧・抵抗 | 女子学院中 | 16.2% |
特に目を引くのは市川中です。市川中の物理小問105問のうち、実に54.3%(57問)が「運動・力学」に集中しています。市川中を志望する場合、物理対策の中でも運動・力学(速さ、水平投射、落下運動など)への配分を意識的に厚くする価値があります。同様に栄東中は「てこ・つり合い・滑車」だけで物理の過半数(55.6%)を占め、武蔵中は「光」だけで3分の1超(34.6%)を占めます。これらの学校では、単元の的を絞った対策が特に効果を発揮しやすい構造です。
反対に、市川中や栄東中のような単元集中型ではなく、複数単元にバランスよく分散している学校もあります(例:女子学院中は電流・電圧・抵抗が最多でも16.2%にとどまり、他単元も分散)。この違いも、過去問対策の設計に直結します。
解答形式の違い。物理は「計算」と「作図」に偏る科目
最後に、物理がどのような形式で答えさせられているかを見ます。まず、物理全体の出題形式構成を、理科4分野合計の構成と比較します。
| 出題形式 | 物理のみ | 理科全体(4分野合計) | 差 |
|---|---|---|---|
| 計算 | 33.1% | 20.4% | +12.7pt |
| 選択 | 26.3% | 30.5% | -4.2pt |
| 記述・説明 | 10.2% | 15.8% | -5.6pt |
| 資料読解 | 9.8% | 11.6% | -1.8pt |
| 実験・考察 | 8.6% | 8.7% | -0.1pt |
| 作図・図示 | 6.1% | 4.0% | +2.1pt |
| 知識・短答 | 4.9% | 8.3% | -3.4pt |
物理は理科全体の中でも際立って計算比率が高く(+12.7pt)、作図・図示も相対的に多い(+2.1pt)一方、記述・説明や知識・短答は理科全体より少ない科目であることが分かります。理科という科目全体を「知識で解く」対策で乗り切ろうとすると、物理でつまずきやすい理由は、この出題形式の違いにあります。
学校別に見ると、この傾向がさらに極端になる学校があります。
| 学校名 | 物理内の計算比率 |
|---|---|
| 明治大学付属明治中 | 100.0% |
| 栄東中 | 85.7% |
| 東邦大学付属東邦中 | 68.9% |
| 高輪中 | 66.2% |
| 豊島岡女子学園中 | 61.1% |
明治大学付属明治中は、物理小問56問すべてが「計算」に分類されています。これは、同校の物理出題が「回路図+計算+実験考察」のような複合形式で構成されており、複数技能を要する問題を代表カテゴリー「計算」に統合集計した結果です(小問1問=1代表カテゴリーという分類ルールのため、資料読解や実験考察の要素を含む問題も、計算が主要素であればすべて計算に分類されます)。実務的には「明治大学付属明治中の物理は、ほぼ例外なく計算処理を伴う」と理解しておくのが安全です。
| 学校名 | 物理内の作図比率 |
|---|---|
| 昭和学院秀英中 | 30.1% |
| 浦和明の星女子中 | 17.0% |
| 日本女子大学附属中 | 16.3% |
| 暁星中 | 16.3% |
| フェリス女学院中 | 16.3% |
昭和学院秀英中は、物理小問の3割が作図・図示です。回路図やグラフを自分の手で描く練習を、日常的な対策に組み込んでおく必要がある学校です。
| 学校名 | 物理内の記述比率 |
|---|---|
| 渋谷教育学園渋谷中 | 46.9% |
| 武蔵中 | 42.3% |
| フェリス女学院中 | 39.5% |
| 本郷中 | 37.3% |
| 学習院女子中 | 27.9% |
渋谷教育学園渋谷中と武蔵中は、物理小問の4割以上が記述・説明です。「物理=計算科目」という一般的なイメージとは逆に、これらの学校では物理でも現象を言葉で説明する力が問われます。
| 学校名 | 物理内の実験考察比率 |
|---|---|
| 麻布中 | 56.2% |
| 女子学院中 | 40.0% |
| 市川中 | 32.4% |
| 駒場東邦中 | 31.0% |
| 法政大学中 | 27.3% |
麻布中は物理小問の半数以上が実験・考察形式です。公式を当てはめて計算するだけでは対応できず、実験設定を読み解き、条件と結果を結びつける力が中心的に問われます。
経年変化。物理比率が大きく動いた学校
61校のうち10年分のデータが揃う54校について、2017〜2019年と2024〜2026年の物理比率を比較しました。
| 学校名 | 2017-19年 | 2024-26年 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 香蘭女学校中等科 | 8.2% | 34.6% | +26.5pt |
| 東京農業大学第一中 | 13.1% | 24.1% | +10.9pt |
| 大妻中 | 18.9% | 29.7% | +10.8pt |
| 洗足学園中 | 28.1% | 38.5% | +10.4pt |
| 栄光学園中 | 42.9% | 53.2% | +10.3pt |
| 学校名 | 2017-19年 | 2024-26年 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 暁星中 | 40.3% | 22.3% | -17.9pt |
| 淑徳与野中 | 38.6% | 22.2% | -16.4pt |
| 昭和学院秀英中 | 37.7% | 25.8% | -11.8pt |
| 高輪中 | 37.5% | 25.9% | -11.6pt |
| 浦和明の星女子中 | 22.8% | 15.6% | -7.2pt |
香蘭女学校中等科は、もともと物理の絶対数自体が61校最少(22問)であるため、この変化は小さな母数に基づく点に注意が必要ですが、それでも2017〜2019年はほぼ物理が出題されない年もあった一方、直近3年は毎年安定して物理が出題されるようになっています。栄光学園中は、もともと最も物理比率が高い学校でしたが、その比率がさらに10ポイント上昇しており、「物理重視」の傾向が近年さらに強まっています。逆に暁星中や昭和学院秀英中は、かつて物理比率トップ層にいましたが、直近では平均的な水準まで低下しています。「この学校は物理が多い」という評価は、過去問の年度によって変わりうるため、直近3〜5年の傾向を優先して確認することをおすすめします。
まとめ。物理対策をどう組み立てるか
61校・3,854問の物理データから見えてきたのは、次の3点です。
第一に、物理は「量」「比率」「難度」がそれぞれ独立した指標だということです。女子学院中(絶対数トップ)、栄光学園中(比率トップ)、芝中(難度プレミアムトップ)は、いずれも別の学校です。志望校の物理対策を考える際は、この3つを別々に確認する必要があります。
第二に、物理は単元が集中する学校と分散する学校に分かれます。市川中(運動・力学に54%集中)や栄東中(てこ・つり合い・滑車に56%集中)のような学校では、単元を絞った重点対策が有効です。一方、単元が分散している学校では、まんべんない対策が必要になります。
第三に、物理は理科の中でも「計算」と「作図」に偏った科目である一方、その中でも学校差は大きいということです。明治大学付属明治中や栄東中のように計算一色の学校もあれば、渋谷教育学園渋谷中や麻布中のように、記述・実験考察が中心の学校もあります。「物理=計算が速ければ勝てる科目」という前提は、学校によっては通用しません。
物理は、理科の中でも「対策の仕方が学校によって最も分かれる分野」と言えます。分野全体の傾向だけでなく、物理という一分野の中でもこれだけの違いがあることを踏まえて、志望校ごとの対策の濃淡を調整していただければと思います。