分野別ディープダイブの第2弾は化学です。前回の物理分析と同じ枠組みで、61校・3,360問の化学小問だけを取り出し、問題数・出題比率・難度・出題単元・解答形式という5つの角度から掘り下げます。
化学は「濃度」「中和」「気体の発生」など、算数的な処理を要する単元と、水溶液の性質のような知識・識別を問う単元が混在する分野です。この混在ぶりが学校によってどう違うのか、データで確認していきます。
化学の絶対問題数。「量」で見た学校差
10年分の過去問に収録されている化学小問の絶対数を見ます。物理以上に、学校によって出題量の差が大きい分野です。
| 順位 | 学校名 | 化学問題数 |
|---|---|---|
| 1 | 法政大学中 | 104 |
| 2 | 明治大学付属明治中 | 95 |
| 3 | 浅野中 | 90 |
| 4 | 市川中 | 89 |
| 4 | 女子学院中 | 89 |
| 6 | 白百合学園中 | 83 |
| 7 | 横浜雙葉中 | 75 |
| 8 | 鷗友学園女子中 | 72 |
| 9 | 東京農業大学第一中 | 71 |
| 10 | 頌栄女子学院中 | 69 |
| 学校名 | 化学問題数 |
|---|---|
| 成城学園中 | 26 |
| 武蔵中 | 22 |
| 広尾学園小石川中 | 18 |
| 栄光学園中 | 14 |
| 香蘭女学校中等科 | 4 |
法政大学中は10年間で104問と、化学だけで100問を超える唯一の学校です。対照的に、香蘭女学校中等科はわずか4問しかありません。栄光学園中も14問と少なく、前回の物理分析で「物理比率トップ(38.8%)」だった栄光学園中が、化学ではほぼ出題の少ない分野になっている点は対照的です。学校ごとに理科という科目の中で、どの分野に重心を置いているかが大きく異なることが、この時点からうかがえます。
化学の出題比率。理科の中でどれだけ化学に依存しているか
化学問題数を、その学校の理科小問全体に占める割合に直すと、絶対数とは違う顔が見えます。
| 順位 | 学校名 | 化学比率 | 内訳 |
|---|---|---|---|
| 1 | 淑徳与野中 | 31.7% | 59/186 |
| 2 | 東京農業大学第一中 | 29.7% | 71/239 |
| 3 | 明治大学付属明治中 | 29.5% | 95/322 |
| 4 | 渋谷教育学園渋谷中 | 29.4% | 42/143 |
| 5 | 雙葉中 | 29.1% | 68/234 |
| 6 | 世田谷学園中 | 28.3% | 67/237 |
| 7 | 早稲田実業学校中等部 | 28.1% | 38/135 |
| 8 | 開成中 | 27.8% | 59/212 |
| 9 | 立教女学院中 | 27.4% | 48/175 |
| 10 | 頌栄女子学院中 | 27.2% | 69/254 |
| 学校名 | 化学比率 |
|---|---|
| 成城学園中 | 14.8% |
| 日本女子大学附属中 | 11.4% |
| 栄光学園中 | 10.4% |
| 香蘭女学校中等科 | 2.4% |
61校平均は23.0%、中央値は24.3%です。トップの淑徳与野中(31.7%)とボトムの香蘭女学校中等科(2.4%)の差は29.3ポイントで、物理以上に開きの大きい分野です。香蘭女学校中等科は化学が理科の40分の1程度しか出題されておらず、同校を志望する場合、化学は他の三分野に比べて優先度を下げても大きな影響が出にくい可能性があります(ただし出題自体がゼロではない点には注意が必要です)。
化学の難度。その学校の中で、化学は相対的に難しいか
| 順位 | 学校名 | 化学C+D率 | 他3分野C+D率 | プレミアム |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 本郷中 | 76.5% | 58.5% | +18.0pt |
| 2 | 立教池袋中 | 50.0% | 32.8% | +17.2pt |
| 3 | 早稲田大学高等学院中学部 | 43.8% | 29.8% | +14.0pt |
| 4 | 法政大学中 | 51.0% | 38.7% | +12.2pt |
| 5 | 駒場東邦中 | 61.7% | 50.2% | +11.5pt |
| 6 | 淑徳与野中 | 30.5% | 20.5% | +10.0pt |
| 7 | 東京農業大学第一中 | 43.7% | 33.9% | +9.7pt |
| 8 | 学習院女子中 | 20.0% | 10.4% | +9.6pt |
| 9 | 明治大学付属中野中 | 22.7% | 13.2% | +9.5pt |
| 10 | 頌栄女子学院中 | 30.4% | 21.6% | +8.8pt |
香蘭女学校中等科は化学C+D率25.0%・プレミアム+16.4ptとなりますが、化学小問がわずか4問しかないため、統計的に不安定です(参考値として除外)。
| 学校名 | プレミアム |
|---|---|
| 広尾学園小石川中 | -28.3pt |
| 日本女子大学附属中 | -23.0pt |
| 海城中 | -17.9pt |
| 芝中 | -13.4pt |
| 武蔵中 | -13.2pt |
本郷中は、他分野のC+D率がすでに58.5%と高い水準にある学校ですが、化学はそこからさらに18.0ポイント高い76.5%です。本郷中を志望する場合、理科全体が難しい学校の中でも、化学が最も難度の高い分野として設計されていると考えられます。
一方、広尾学園小石川中や日本女子大学附属中は、化学が他分野より20ポイント以上やさしく作られている計算になります。これらの学校では、化学は理科の中で相対的に得点しやすい分野と位置づけられている可能性があります。ただし化学の絶対問題数自体が少ない学校(広尾学園小石川中18問など)もあるため、値の振れ幅がやや大きくなりやすい点は留意してください。
化学のどの単元が出るか。中単元別の内訳
化学は「水溶液」「燃焼」「気体」「中和」など複数の中単元に分かれます。61校・3,360問全体で見ると、出題の中心は次の単元です。
| 順位 | 中単元 | 問題数 | 比率 |
|---|---|---|---|
| 1 | 水溶液の性質・識別 | 592 | 17.6% |
| 2 | 燃焼 | 588 | 17.5% |
| 3 | 気体の性質 | 309 | 9.2% |
| 4 | 中和 | 243 | 7.2% |
| 5 | 溶解度・結晶 | 230 | 6.8% |
| 5 | 物質の性質・分類 | 230 | 6.8% |
| 7 | 金属と酸・化学反応 | 221 | 6.6% |
| 8 | 気体の発生 | 213 | 6.3% |
| 9 | 状態変化 | 140 | 4.2% |
| 10 | 反応量 | 102 | 3.0% |
| 11 | 濃度 | 100 | 3.0% |
「水溶液の性質・識別」と「燃焼」が二大単元で、合わせて化学全体の約35%を占めます。物理が「てこ」「光」に集中していたのと同様、化学もこの2単元への依存度が高い構造です。ただし学校ごとの偏りは、物理よりもさらに極端です。
| 単元 | 最も比率が高い学校 | 校内比率 |
|---|---|---|
| 水溶液の性質・識別 | 駒場東邦中 | 78.7% |
| 燃焼 | 開智中 | 50.0% |
| 気体の性質 | 成城学園中 | 30.8% |
| 中和 | 明治大学付属明治中 | 30.5% |
| 溶解度・結晶 | 学習院女子中 | 22.5% |
| 物質の性質・分類 | 桜蔭中 | 60.0% |
| 金属と酸・化学反応 | 東京都市大学付属中 | 24.0% |
| 気体の発生 | 開智中 | 27.3% |
| 状態変化 | 栄東中 | 22.2% |
| 反応量 | 早稲田大学高等学院中学部 | 18.8% |
| 濃度 | 洗足学園中 | 15.6% |
駒場東邦中は化学小問47問のうち78.7%が「水溶液の性質・識別」です。化学のほとんどが水溶液の識別・判別問題で構成されており、駒場東邦中を志望する場合、化学対策の大部分をこの単元に投下する判断が合理的です。桜蔭中も「物質の性質・分類」だけで化学の60.0%を占め、こちらも極端な単元集中型です。
一方、こうした集中型とは対照的に、化学の中で複数単元にまたがって出題する学校もあります。単元が集中している学校ほど、過去問演習の的を絞りやすく、逆に分散している学校では、化学全体をまんべんなく仕上げる必要があります。
解答形式の違い。化学は「計算」と「実験・考察」が拮抗する科目
化学がどのような形式で答えさせられているかを、理科4分野合計の構成と比較します。
| 出題形式 | 化学のみ | 理科全体(4分野合計) | 差 |
|---|---|---|---|
| 計算 | 29.8% | 20.4% | +9.4pt |
| 選択 | 27.1% | 30.5% | -3.4pt |
| 記述・説明 | 13.8% | 15.8% | -2.0pt |
| 実験・考察 | 11.1% | 8.7% | +2.4pt |
| 知識・短答 | 7.7% | 8.3% | -0.6pt |
| 資料読解 | 7.1% | 11.6% | -4.5pt |
| 作図・図示 | 2.6% | 4.0% | -1.4pt |
化学も物理と同様に計算比率が理科全体より高め(+9.4pt)ですが、物理ほど極端ではありません(物理は+12.7pt)。代わりに化学で目立つのは実験・考察の高さ(+2.4pt)です。物理は実験・考察がほぼ理科全体並み(-0.1pt)だったのに対し、化学は濃度や中和、気体発生の実験設定を読み解く出題が、理科全体の平均より多く組み込まれています。逆に資料読解は理科全体より少なく(-4.5pt)、作図・図示も物理より低い水準(2.6%)です。
| 学校名 | 化学内の計算比率 |
|---|---|
| 高輪中 | 80.7% |
| 学習院女子中 | 70.0% |
| 栄東中 | 66.7% |
| 桜蔭中 | 64.6% |
| 世田谷学園中 | 61.2% |
高輪中は化学小問の8割が計算に分類されます。濃度・中和・反応量といった数値処理を伴う単元への依存度が高いことがうかがえます。
| 学校名 | 化学内の実験考察比率 |
|---|---|
| 東邦大学付属東邦中 | 53.5% |
| 麻布中 | 49.3% |
| 市川中 | 31.5% |
| 筑波大学附属駒場中 | 29.8% |
| 開智中 | 29.5% |
東邦大学付属東邦中と麻布中は、化学小問の半数近くが実験・考察形式です。麻布中は前回の物理分析でも実験・考察比率トップ(56.2%)でしたが、化学でも同様の傾向が確認でき、麻布中は理科全体を通じて「実験を読み解く力」を重視する出題方針であることが分かります。
| 学校名 | 化学内の記述比率 |
|---|---|
| 広尾学園中 | 74.0% |
| 海城中 | 44.1% |
| 本郷中 | 33.3% |
| 武蔵中 | 31.8% |
| 洗足学園中 | 29.7% |
広尾学園中は化学小問の74.0%が記述・説明に分類されます。これは同校の化学出題が「選択・記述混合」のような複合形式で構成されており、記述の要素を含む問題が代表カテゴリー「記述・説明」に統合された結果です(小問1問=1代表カテゴリーという分類ルールによるもので、実際には選択と記述を組み合わせた出題が中心です)。
| 学校名 | 化学内の選択比率 |
|---|---|
| 青山学院中等部 | 84.5% |
| 慶應義塾中等部 | 79.1% |
| 東京都市大学付属中 | 64.0% |
| 立教女学院中 | 62.5% |
| 国府台女子学院中 | 62.5% |
青山学院中等部と慶應義塾中等部は、化学小問の8割前後が選択形式です。知識の正確さを問う出題が中心で、記述力よりも正誤判断の精度が問われる構成です。
経年変化。化学比率が大きく動いた学校
61校のうち10年分のデータが揃う54校について、2017〜2019年と2024〜2026年の化学比率を比較しました。
| 学校名 | 2017-19年 | 2024-26年 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 渋谷教育学園渋谷中 | 22.7% | 51.1% | +28.3pt |
| 世田谷学園中 | 17.3% | 33.8% | +16.5pt |
| 暁星中 | 6.5% | 22.3% | +15.8pt |
| 成城学園中 | 5.6% | 16.7% | +11.1pt |
| 女子学院中 | 18.7% | 28.3% | +9.6pt |
| 学校名 | 2017-19年 | 2024-26年 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 東京農業大学第一中 | 45.9% | 19.0% | -26.9pt |
| 中央大学附属中 | 35.6% | 11.1% | -24.4pt |
| 洗足学園中 | 27.0% | 15.4% | -11.6pt |
| 山脇学園中 | 27.8% | 17.1% | -10.7pt |
| 雙葉中 | 33.8% | 25.4% | -8.4pt |
渋谷教育学園渋谷中は、化学比率が10年前の2倍以上に伸びており、61校の中でも最大の変化幅です。同校は化学小問の絶対数自体が61校中でも少ない部類(42問)ですが、直近の出題傾向としては化学の比重が明確に高まっています。逆に東京農業大学第一中は、かつて化学比率がほぼ半分(45.9%)という突出した学校でしたが、直近では19.0%まで下がり、平均を下回る水準まで落ち着いています。物理の記事と同様、「この学校は化学が多い/少ない」という評価は年度によって変わりうるため、直近の傾向を優先して確認することをおすすめします。
まとめ。化学対策をどう組み立てるか
61校・3,360問の化学データから見えてきたのは、次の3点です。
第一に、化学は物理以上に学校間の出題量の差が大きい分野です。法政大学中(104問)と香蘭女学校中等科(4問)の差は26倍にのぼり、これは物理の最大差(女子学院中105問÷香蘭女学校中等科22問=約4.8倍)よりもはるかに大きい開きです。志望校によっては、化学の優先順位を大胆に調整する必要があります。
第二に、化学も物理と同様、単元が極端に集中する学校があります。駒場東邦中(水溶液の性質・識別に79%集中)や桜蔭中(物質の性質・分類に60%集中)のような学校では、単元を絞った対策の効果が特に大きくなります。
第三に、化学は「計算」と「実験・考察」がともに理科全体平均を上回る、やや特殊な形式構成を持つ分野です。高輪中のように計算一色の学校もあれば、東邦大学付属東邦中や麻布中のように実験・考察中心の学校もあり、同じ「化学が得意」でも中身はまったく異なります。
物理・化学と2分野を見てきたことで、「理科が得意」という括りがいかに粗いかが、より具体的に見えてきたのではないかと思います。次回以降、生物・地学についても同様の深掘りを予定しています。